マムシとハブ 毒性はマムシのほうが強いので要注意
「マムシは小型でおとなしく、ハブに比べたら毒性も低くて危険も少ない」一般にはこのように思われているのですが、それは正しくありません。じつはマムシの毒性はハブよりも強く、年間に毒ヘビの咬傷事故で死亡する人のほとんどが、マムシに咬まれて尊い命を失っています。
■マムシ(ニホンマムシ)
ニホンマムシはクサリヘビ科の毒ヘビです。南西諸島を除く日本の各地に分布し、水辺や草むら、土手、山地、森林などあらゆる場所に生息しています。全長45-80cmほどの小型のヘビですが、毒性が強く、毎年3000人ほどが咬傷被害にあって、そのうち10名ほどが尊い命を落としています。死亡率は0.3%〜0.4%ほどです。
渓流釣りや沢登りで岩場に不用意に手を突いたり、キノコ採りで落ち葉を素手で払うよう行為は非常に危険ですので十分に注意しなければなりません。
■ハブ
沖縄諸島と奄美諸島に生息するマムシと同じクサリヘビ科の毒ヘビです。体長は最大で2mを越えるものがあり、山地や森林、平地、人家の周辺まで幅広い環境に生息しています。時にはエサのネズミを追って屋敷や家屋内にも侵入します。ハブ咬傷被害の約30%がこれらの民家敷地内で生じています。一番多いのが農作業中の事故で全体の50%に達します。
毒性はマムシよりも弱いのですが、体格が大型で、咬まれると大量の毒液が注入されるため危険です。直ちに病院にいって手当を受ける必要があります。
■ヤマカガシ
ナミヘビ科のヘビで、アオダイショウやシマヘビの仲間です。長い間無毒と考えられていましたが、1972年に中学生が噛まれて死亡する事故が起きてから、毒蛇として認識されるようになりました。
上あごの奥歯(後牙)と首筋の2箇所から毒液を分泌します。カエルが主食で水田や川、渓流近くに生息する。本来おとなしいヘビなので、捕まえたり誤って踏みつけたりしない限り咬まれることはありません。
ヘビ毒(出血毒と神経毒)
ヘビの毒には、クサリヘビ科に代表される「出血毒」と、コブラ科に代表される「神経毒」があります。マムシやハブなどは出血毒です。
出血毒は唾液と同じ消化液が強力に進化したものです。タンパク質を溶かし血管組織破壊していきます。そのため咬まれるとすぐに激痛が襲い、内出血が拡大していきます。出血のため患部は腫れ上がり、ひどい場合には循環障害のため筋肉細胞が壊死を起こしてダメージをより深めていきます。手当てが遅れたり、咬まれた部位あるいは注入毒量によっては循環器全体や腎臓にも障害が広がって、ひどい場合には死に至ります。
一方、コブラやウミヘビなどのコブラ科の神経毒は、神経を麻痺させて相手を動けなくする効果があります。咬まれた時の症状は、しびれ、運動・知覚マヒ、呼吸困難などで、死亡率は出血毒よりはるかに高くなります。
死亡のリスクは神経毒のほうが高く、逆に出血毒は死亡リスクは低いものの細胞壊死による後遺症障害が残るリスクが高いといえましょう。
なお、ヤマカガシの毒は出血毒ですが、マムシやハブとは少し違っておもに血小板に作用するため、激しい痛みや腫れはあまり起こりません。ただ、血小板が破壊されるため全身におよぶ皮下出血、内臓出血がおこり、腎機能障害や脳内出血を引き起こすこともあります。
いずれにしても、毒ヘビに咬まれないことが第一ですが、万が一にも咬まれた場合にはできるだけ早く病院で治療を受ける必要があります。病院での治療は血清投与が中心になります。
マムシ咬傷の事故報告
マムシに咬まれて10日間入院した自らの体験をネット上で公開してくれた方がいます。長崎県に在住のハンドルネーム「やまねこ」さんです。このような実体験に基づく情報の公開は例が少なく、マムシ咬傷を考えるうえで大変参考になる第一級の資料です。やまねこさんの了解を得て、以下にその内容の一部を要約させていただきます。
↓ 詳しく調べたい方はぜひ、オリジナルのホームページを訪問してください。
事故報告 【自然の中で】長崎県対馬より発信する登山とカヌーのぺージ
■事故状況
対馬で沢登り中に、直径1.5m程度の小さなプール状地点で、小魚を手づかみするために草付きの下に両手をさし伸ばしたところ、右手第四指(薬指)の先が刺されるような強い刺激があった。傷口は2ヶ所。草付き下から出てきたマムシ(ツシママムシ)を確認した。
■応急処置
傷口につめを押し当て3分程度血液とともに毒を絞り出して沢の流水にさらす。口で毒を吸い出すことは行なっていない。
山中で携帯の電波状況が悪く、一旦標高差150m先の山頂までのぼり救急車を要請した。
少しでも早く病院へという気持ちからかなり早足で歩き、一部小走りとなった。
10分後くらいから腫れが出てくる。この時点で強い痛みはない。傷口から心臓側の圧迫は、30分後くらいから肘下をタオルで圧迫。すでにこの時点で肘下まで腫れ上がっていた。70分後、救急車に乗車。100分後に病院到着。
■治療経過
病院に到着した時点で腫れはすでに肘上まで達していた。
血清使用を決定したが、アレルギー反応で陽性反応が出たため、薄めて点滴で注入した。併せて破傷風抗毒素を使用。
最初の5日間はICUで過ごし、その後も8日目までは2種類の点滴を24時間連続注入した。
筋肉の腫れは7日目でストップしたが、最終的には背中のこうはい筋と大胸筋まで広がっていた。
入院10日で退院できたが、咬れた右の薬指は、なお腫れが残り、親指より大きい。
■要約者(私)の感想
心拍数を上げないためにも患者は安静を保つことが大事ですが、山の中ではそうもいきません。普通は下山を急ぐのでしょうが、早く救急車を手配するために、電波状況のいい山頂に一旦登る判断・勇気には感心しました。
受傷後100分で病院に到着できたのは、場所にもよりますが、山中でのマムシ咬傷事故としては早いほうなのではないでしょうか。
アレルギー反応があって初期段階で十分な量の血清を投与できなかったこともあり、かなり重篤な症状になったようです。HPにはその後の経過は述べられていませんが、もちろん退院後、早い段階で完治できたものと推察します。貴重な体験報告をありがとうございました。
ハブの被害事例
ハブにも強い出血毒があり咬まれると結果は悲惨です。聞くところによるとその痛さは、真っ赤に焼けた「焼き火ばし」を押し付けられたようだといわれます。幸いにも私は、ハブ咬傷も焼き火ばしも経験はありませんが、一度だけ毒魚の「ミノカサゴ」に刺されてズッキンズッキンと大変痛い経験をしたことがあります。だからヘビ毒の痛さは十分に推察できます。

ハブに左足を咬まれた男性の写真です。
ハブ獲り中に、獲ったハブを木箱からビニール製の網袋に移し替える際に誤って受傷。咬まれたのは膝の関節部ですが、膝から太ももかけて内出血のあとが痛々しい。
この写真は受傷後5日目のもので大分腫れも引いているが、一時はもっと大きくパンパンに腫れ上がっていたといいます。まだ膝が曲がらないので歩くことができません。
この男性は咬まれてすぐに同行者の車で病院に搬送されました。受傷後数分で激痛が襲ってきました。「痛いってもんじゃない」は、本人の弁です。
結局、最初の3日間はICUで集中治療を受け、その後一般病棟に移されました。23日間入院したあと無事に退院。幸いにも後遺症は残らなかったそうです。

上のグラフは沖縄県におけるハブ咬傷患者数の推移を示したものです。ハブに咬まれる人の数は年々減ってきており、1992年以降は年間ほぼ100人前後で推移しています。1999年のハブ咬傷者数は82人でした。サキシマハブ咬傷の27人、ヒメハブ咬傷の7名を加えると、合計で116名になります。
死亡者数を赤数字で表示していますが、ハブ咬傷で死亡する人は意外に少なく、ほとんどの年でゼロ、たまに発生しても年間1名か2名です。
ちなみに、ハブ咬傷だけに限って1977年から1999年までの死亡率を計算すると、概略3700回の受傷に対して死亡は12名、死亡率は0.32%になります。これは上述したマムシの死亡率とほぼ同じです。ハブ咬傷の死亡率がとりわけ高いわけではありません。



