神経毒と出血毒(血液毒)
ヘビ毒 大研究

ヘビ毒にみられる神経毒と出血毒について解説します。世界の毒蛇はコブラ科やクサリヘビ科など5科。いずれも神経毒と出血毒をもっています。恐ろしいヘビ毒のはなしです!

インドコブラ/神経毒と出血毒(血液毒)
インドコブラ。強い神経毒をもつことで知られている。
(画像提供:Varbak)

ヘビ毒は、神経毒と出血毒に大別されます。

コブラやウミヘビの毒は神経毒が主体で、クサリヘビやマムシの毒は出血毒を多く含みます。
これらのヘビ毒は、いずれも本体はタンパク質であり、唾液などの消化液(消化酵素)が高度に進化したものです。

毒蛇はこれらの毒液を顎の近くの毒腺に貯蔵していて、通常は獲物に噛み付くことによって毒牙から毒液が注入されます。

中にはドクフキコブラのように、相手の目をめがけて毒液を吹き付けるものや、ヤマカガシのように、自分で生成する毒とは別に、餌として捕食したヒキガエルの毒(ブフォトキシン)を頚腺に蓄えて再利用しているものもあります。

ヘビ毒(毒蛇の毒)のはなし

毒蛇の種類・毒の種類

全世界に3000種ほど生息するとされているヘビ亜目のうち、約25%の種が毒蛇だと言われています。
毒蛇には、コブラ科(全種)、ウミヘビ科(全種)、モールバイパー科(全種)、クサリヘビ科(全種)およびユウダ科(一部の種)のヘビがいます。

毒蛇と毒の種類

コブラ科
神経毒】 代表種のコブラは、鎌首を持ち上げ首のフードを広げて敵を威嚇することでも有名。キングコブラ、インドコブラ、ブラックマンバ、アマガサヘビ、インランドタイパンなど超一級の猛毒ヘビが揃っている。
ウミヘビ科
神経毒】 海棲に適応したヘビで、熱帯から亜熱帯の海域に広く生息する。コブラ科に含まれるとの説もある(コブラ科ウミヘビ亜科に分類)。エラブウミヘビ、クロガシラウミヘビ、セグロウミヘビなど猛毒の持ち主が多い。
モールバイパー科
神経毒】 コブラ科と近縁にあり、アフリカ・アラビア半島に棲む小型のヘビ。尾部は硬く尖っておりこれで土を掘ると言われている。十数種類の仲間を含みいずれも強い神経毒を持つ。
クサリヘビ科
出血毒】 三角頭で体型が太く、斑紋に網目模様の種が多いため、一見鎖のように見えことから名付けられた。クサリヘビマムシハブガラガラヘビなど、こちらも猛毒ヘビが多い。
ユウダ科
出血毒】 かつてはユウダ亜科としてナミヘビ科に含められていたが、最近の分類でユウダ科に分離・独立された。ヤマカガシガラスヒバァなど後牙類の毒蛇で、通常の毒蛇のように前歯に鋭い毒牙は存在しない。

※これらの毒蛇は、実際には神経毒と出血毒をそれぞれ単体で持っているわけではなく、すべての毒蛇が神経毒と出血毒の両方を併せ持っています。その割合が異なるだけです。

※ヘビ毒には、神経毒・出血毒のほかにも、筋肉毒や溶血毒(血液凝固阻害毒)などの分類があります。ただし、筋肉毒と溶血毒は広義には出血毒に含められます。

神経毒

神経系に作用し、神経の伝達を遮断します。そのため筋肉の収縮と弛緩ができなくなり、筋肉麻痺やしびれを生じて動けなくなります。重篤な場合は呼吸や心臓も停止して死に至ります。

神経毒は出血毒のような激しい痛みは伴いませんが、即効性があり、致死性が高くてきわめて危険です。
捕食のための武器として使われる生物毒は神経毒が中心となっていて、ヘビにおいてもコブラ科など7割を超える毒蛇が神経毒を主体に使っています。

神経毒はアミノ酸数60~74くらいのポリペプチド(多数のアミノ酸の化合物)であり、その作用機序から次の4つに分類されます。

■α-ブンガロトキシン
神経筋接合部の筋肉側に作用して、神経伝達物質アセチルコリンの結合を妨げます。その結果、筋肉は弛緩します。東南アジアや台湾に分布するアマガサヘビが保有するほか、多くの毒ヘビから類似体が見つかっています。

■β-ブンガロトキシン
神経筋接合部の神経側の膜に作用して、アセチルコリンの放出を妨ぎます。その結果、筋肉は収縮することができなくなります。

■デンドロトキシン
アフリカに生息するマンバが保有。神経のカリウムイオンチャネルを阻害して、カリウムイオンの神経からの放出を妨げます。そのために興奮が元に戻らず、アセチルコリンの放出が続いて筋肉は収縮したままになります。

■ファシキュリン類
こちらもマンバが保有。シナプス後膜(筋肉側)のアセチルコリンエステラーゼの働きを阻害。受容体に結合したアセチルコリンの分解が妨げられ、興奮が持続した状態になります。その結果、筋肉は収縮した状態が続きます。

◇その他の神経毒
最近,種々のイオンチャンネルを阻害する神経毒様のタンパク質として,CRISP (cysteine-rich secretory protein)と呼ばれるタンパク質群が見つかっています。コブラ毒のnatrin,ハブ毒のtriflin,マムシ毒のablominなどがCRISPにあたります。

出血毒(血液毒)

出血毒は、毒性学では血液毒の範疇に含まれるものですが、ヘビ毒の場合は血液凝固、溶血、筋肉毒などを含めて、総称として「出血毒」という呼び方が定着しています。

出血毒は主にクサリヘビ科の毒蛇が持つ毒で、プロテアーゼ(蛋白質分解酵素)の作用によってフィブリン(血液凝固に関わるタンパク質)を分解して血液凝固を阻害し、さらに血管壁の細胞を破壊することで出血させます。また、血液のプロトロンビン(血液凝固の第2因子)を活性化させ、血管内に微小な凝固を発生させることで凝固因子を消費させ、逆に出血を止まらなくする作用もあります。
血圧降下、体内出血、腎機能障害、多臓器不全を引き起こし、重篤な場合は死に至ります。

出血毒は神経毒に比べて致死率は低いのですが、血管や筋肉の細胞を破壊するために激しく痛み、また筋肉壊死を引き起こすため、たとえ一命を取り留めたとしても、手足切断や高度の後遺症が残るなど、悲惨な結果を迎えることが多くあります。

ヤマカガシの毒について(マムシ毒との違い)

ユウダ科のヤマカガシの毒は出血毒ですが、クサリヘビ科のマムシやハブなどとは少し違っていて、プロトロンビンの活性化(血液凝固作用)が主な作用です。血管内に微小な凝固を発生させることで凝固因子を消費させ、逆に出血を止まらなくしてしまいます。その作用は強力で、時にはフィブリノーゲンがほとんどゼロまで減少します。

フィブリノーゲンは、血小板と同様に、出血の際の止血機構の一役を担っています。この成分が減少することで出血が止まらなくなるのです。そのため、ヤマカガシの毒を「溶血毒」と呼ぶこともあります。

ヤマカガシの毒には細胞を破壊する成分はありません。そのため腫れや痛みはほとんどなく、受傷後数時間から1日ほど経過したあとで出血傾向が現れます。全身におよぶ皮下出血、内臓出血がおこり、脳内出血を伴う場合もあります。
また、毒の直接作用によりDIC(播種性血管内凝固症候群)を引きおこし、さらに、微小な血栓が腎糸球体を閉塞させ、急性腎不全を起こして死に至ります。

※マムシ咬症では、腫れや痛みが軽度であっても重症化するケースがあり注意が必要です。
毒が急速に血管に入った場合、毒の血小板凝集活性が急激に作用し、血小板が短時間で減少して顕著な出血傾向を引きおこします。このような症例が、しばしばヤマカガシ咬症と間違われることがあります。

※ただし、ヤマカガシ咬症ではフィブリノーゲンの減少が主体であり、マムシ咬症では血小板の減少が主体です。そのため経時的に血液検査を行うことによって、毒蛇の種類の判別や、毒の注入の有無、重症化の診断などが可能となります。

マムシ毒およびハブ毒の有毒成分とその作用

マムシ毒およびハブ毒の有毒成分とその作用
上段;有毒成分/下段;作用

出血因子(毒の本体)
 血管壁損傷(出血)、フィブリノーゲン分解

金属プロテアーゼ(非出血性)
 筋肉分解、血管損傷、フィブリノーゲン分解、補体活性化

セリンプロテアーゼ
 フィブリノーゲン分解、血管透過性増大、補体活性化

ディスインテグリン
 血小板凝集の阻止

ホスホリパーゼA2(PLA2)
 細胞膜損傷、血小板凝集の阻止

PLA2関連タンパク質
 筋壊死,浮腫(後遺症の原因)

ヒアルロニダーゼ
 組織の破壊

L-アミノ酸酸化酵素
 H2O2発生(膜損傷)

ブラジキニン増強ペプチド
 ブラジキニン生成(激痛)

神経毒様タンパク質
 Ca2+チャンネルを遮断

有毒成分 作用
出血因子(毒の本体) 血管壁損傷(出血)、フィブリノーゲン分解
金属プロテアーゼ(非出血性) 筋肉分解、血管損傷、フィブリノーゲン分解、補体活性化
セリンプロテアーゼ フィブリノーゲン分解、血管透過性増大、補体活性化
ディスインテグリン 血小板凝集の阻止
ホスホリパーゼA2(PLA2) 細胞膜損傷、血小板凝集の阻止
PLA2関連タンパク質 筋壊死,浮腫(後遺症の原因)
ヒアルロニダーゼ 組織の破壊
L-アミノ酸酸化酵素 H2O2発生(膜損傷)
ブラジキニン増強ペプチド ブラジキニン生成(激痛)
神経毒様タンパク質 Ca2+チャンネルを遮断

※引用:生化学の基礎(生物毒)Wikipedia(ヘビ毒)

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