牡蠣とノロウイルス
生食用かきと加熱用かきの違い
牡蠣とノロウイルス:冬は生ガキがおいしい季節です。同時に冬はノロウイルスによる食中毒が多くなる季節でもあります。なぜ牡蠣にノロウイルス食中毒が多いのか? 牡蠣の生食用と加熱用はどこが違うのか?などについてまとめました。
おいしい生ガキ。牡蠣の生食用と加熱用の違いは何なんでしょうか?
(画像提供:食べログ)
牡蠣(かき)などの貝類を食べて食中毒になるケースが毎年発生します。原因は二つあります。一つは貝毒による食中毒。もう一つはノロウイルスや腸炎ビブリオなどによる食中毒です。
貝類の食中毒件数としては前者が1割、後者が9割といったところです。貝毒よりも、ノロウイルスや腸炎ビブリオによる食中毒のほうが圧倒的に多いのです。ここでは多数派の、後者の食中毒について採りあげます。貝毒については別ページを参照してください。(⇒貝毒の原因と種類・症状)
よく、牡蠣の「生食用」と「加熱用」の違いを尋ねられますが、この違いは鮮度ではありません。牡蠣が採れた海域の汚染度の違いによるものなのです。海域がノロウイルスや腸炎ビブリオなどで汚染されていると、当たり前ですが生食用にはできません。
また、加熱してカキフライに調理したのに食中毒になった、などの話もあります。これは、まな板などの調理具がノロウイルスなどで汚染されていたか、加熱の仕方が足りなかったのです。
生ガキの出荷の安全基準や衛生対策、ノロウイルスや腸炎ビブリオの危険性についてまとめました。
牡蠣~生食用と加熱用の違い
牡蠣の生態と生息水域
牡蠣(かき)は、海水中に浮遊するプランクトンが餌であり、そのプランクトンは、山から流入する栄養塩豊富な河口付近に大量に発生します。そのため、市場に流通する真牡蠣(マガキ)の養殖は、河口にほど近い、人間の生活圏に近接した海域で行われています。
牡蠣の生体は、一日に300リットルの海水を浄化すると言われています。プランクトンだけでなく、生活排水から海に流れ出たウィルスや細菌なども一緒に吸い込んで体内に蓄積します。そのため時として、ウイルスや細菌で汚染された牡蠣が水揚げされ、食中毒を引き起こすことがあります。
汚染原因は、ノロウィルスや腸炎ビブリオ、ならびに大腸菌などの各種細菌が想定されますが、その中でも、昨今は特にノロウィルスが猛威を奮っていると各機関が警告しています。
■波静かな内湾に浮かぶ牡蠣の養殖筏
(画像提供:Tabetainjya)
牡蠣の養殖筏は、栄養塩もプランクトンも豊富な内湾に設置されます。その分、人間の生活圏にも近く、ノロウィルスや腸炎ビブリオなどで汚染されるリスクも高くなります。
生食用かきの規格基準
養殖した牡蠣を「生食用」として出荷するには、食品衛生法で定める規格基準に適合しなければなりません。細菌数や大腸菌数、腸炎ビブリオ最確数などが細かく規定されています。
そのため、牡蠣生産地の自治体や生産者団体では、生食用かきの収穫時期(11月~翌年3月まで)に合わせて、養殖海域ごとに海水と牡蠣のサンプリング調査を実施して、海域の水質と汚染状況について常に把握するようにしています。
これらの調査結果も踏まえて、生食用かきの生産海域を、下記のように3つに区分して管理しています。
①指定海域:採取した牡蠣をそのまま生食用かきとして出荷できる海域
②条件付指定海域:採取した牡蠣を人工浄化(おおむね20時間換水)することによって生食用かきとして出荷できる海域
③指定外海域:加熱調理用かきしか出荷できない海域
したがって、生食用かきと加熱用かきの違いは、鮮度とかではなく、生産される水域の違いということになります。
【参考】広島県の取り組み~生食用かきの指定海域と指定外海域
(画像提供:広島県)
広島湾、呉湾、広湾および三津湾における生食用かきの海域区分。
生食用かきの指定海域(灰色表示)、条件付き指定海域(青色)、指定外海域(黒色)が表示されています。
ノロウイルス
ノロウイルスの電子顕微鏡写真
(画像提供:広島市)
ノロウイルス(Norovirus)は、ヒトに経口感染して十二指腸から小腸上部で増殖し、伝染性の消化器感染症(感染性胃腸炎)を引き起こします。激しい吐き気や嘔吐、38℃程度の発熱が主な症状です。死に至る重篤な例は稀ですが、苦痛がきわめて大きく、ときに十二指腸潰瘍を併発することもあります。
ヒトからヒトへ経口感染するほか、下水や生活汚水にまぎれて海に流入し、養殖カキなど貝類に蓄積して食中毒を引き起こす原因にもなります。
ノロウイルスは寒冷な気温を好み、気温が低い冬の時期にもっとも安定しています。
ちょうどこの頃は、牡蠣(マガキ)が旬を迎える時期でもあります。生ガキを食べてノロウイルスの食中毒にかかりやすいのはこのためです。
牡蠣の水揚げ日本一を誇る広島県では、毎年11月~翌年3月の生食用かきの出荷シーズンには、県の指導に基づき生産者団体や出荷者団体が毎週1回~2回、広島湾を7つの海域に区分して牡蠣のノロウイルス自主検査を行っています。
検査結果で陽性となった場合は、加熱調理用かきに切り替えて出荷し、次回以降の自主検査で陰性と確認されるまで生食用かきとして出荷されることはありません。
腸炎ビブリオ
腸炎ビブリオの電子顕微鏡写真
(画像提供:北海道立衛生研究所)
腸炎ビブリオは主に海水中に生息する細菌です。魚介類のからだに付着していて、これらの魚介類を生食することでヒトに感染して腸炎ビブリオ食中毒を発症させます。激しい腹痛を伴う下痢を主症状として、嘔吐や発熱を伴うことがあります。
1950年10月、大阪南部で発生した「シラス干し」 による患者272名、死者20名の大規模食中毒の原因菌として初めて分離されました。腸炎ビブリオはヒトからヒトへの感染は稀で、もっぱら魚介類を通して経口感染します。
寒さに強いノロウイルスとは逆に、腸炎ビブリオは暖かい海水を好み、6月から9月の海水温が20℃を超える時期に多く発生します。適温(30~37℃)になると急激に増殖します。
そのため、生食用の魚介類を気温の高い場所に放置しておくと、付着していた腸炎ビブリオが魚介類の表面で大量に増殖して危険です。
腸炎ビブリオ食中毒は、日本で発生する食中毒の原因菌としては、サルモネラと並んで、発生件数で1~2位にランクされます。
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