プラムポックスウイルス(Plum Pox Virus:PPV)
ウメやモモの病原体

プラムポックスウイルスはウメ輪紋ウイルスとも呼ばれる植物ウイルスです。梅や桃に寄生(感染)して壊滅的な被害を与えます。

青梅市梅の公園の梅林。プラムポックスウイルス感染により2014年春の梅まつりを最後に1200本の全株が伐採されます。この景観は今後見られなくなります。
青梅市「梅の公園」の梅林。2014年に全株が伐採されました。
(画像提供:青梅市観光協会)

青梅市梅の公園。美しい梅林の里として有名な吉野梅郷(よしのばいごう)の中にあり、80品種、1,266本の梅が、4万5千平方メートルの山の斜面いっぱいに咲き乱れます。東京都青梅市が昭和47年に整備した自然公園で、大勢の観光客が訪れる吉野梅郷のシンボルであり、観光の中心スポットとなっていました。

ところが、プラムポックスウイルスの蔓延により、市は2014年春の梅まつりを最後に、梅の公園の1266本全株を伐採せざるを得なくなりました。観光事業への影響は計り知れません。写真のような景観は、これからは観られなくなります。

プラムポックスウイルスとは、いったい何なのでしょうか?
ここでは、梅林(果樹林)を全滅に導く恐ろしい植物ウイルスの実態に迫ります。

植物ウイルスの脅威

プラムポックスウイルスとは何か?

プラムポックスウイルスとは、バラ科サクラ属の植物に感染する植物ウイルスです。Plum Pox Virus(PPV)。別名をウメ輪紋ウイルスともいいます。

■感染する種(サクラ属)
 ウメ、モモ、スモモ、プルーン、アンズ、ネクタリン、サクランボ、アーモンドなど。

果樹がプラムポックスウイルスに感染すると、葉や花弁や外果皮に斑紋が現れます。果実は早期に落果するため、収穫量は大幅に減少。落下を免れた果実でも、外果皮に異様な斑紋があることから商品価値はほぼゼロとなります。果樹農家にとっては死活問題です。

プラムポックスウイルスに感染したアンズ プラムポックスウイルスに感染したモモ
プラムポックスウイルスに感染したアンズ(左/上)、モモ(右/下)

プラムポックスウイルスは、日本では現在、ウメのみに感染が認められています。そのため、ウメだけに注意が向けられていますが、プラムポックスウイルスはモモやプルーン、サクランボなどサクラ属の多くの植物に感染します。わが国の主要な農産果実がそろっているので、感染が全国に広がると大変な事態に陥ります。

なお、プラムポックスウイルスはヒトや動物には感染しないため、プラムポックスウイルスに感染した果実を食べても健康に影響はないとされています。

プラムポックスウイルスの感染経路と対策

プラムポックスウイルスは1910年(*)にブルガリアで発見されて以降、世界各地で感染が確認されるようになりました。いまではヨーロッパ、アジア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ等でも確認されています。

日本では、2009年に初めて青梅市の吉野梅郷で感染が確認されました。ウメで感染が確認されたのは世界で初めてです。

※(* 1910年はコーネル大学の資料による。農林水産省の資料では1915年としている。)

プラムポックスウイルス(電子顕微鏡写真)

プラムポックスウイルス
(画像提供:東京大学)

粒子状の多数のプラムポックスウイルスが植物細胞に寄りついています。

ウイルスは、細菌や真菌(カビ)と違って自らの細胞を持たず、他の生物の生きた細胞に寄生(感染)して増殖します。抗生物質は細菌には効きますが、細胞をもたないウイルスには全く効果がありません。


プラムポックスウイルスはアブラムシが媒介するほか、感染した苗木などから感染区域が広がります。 このウイルスの治療法や予防薬は現時点で開発されておらず、対策としては徹底した封じ込め以外にありません。
防除区域内でアブラムシの消毒、感染樹や周辺樹木の伐採・抜根・焼却処分、苗木や切り花等の持ち出し禁止などが対応策となります。

日本での感染地域(プラムポックスウイルス防除区域)

植物防疫法に基づき、国(農林水産省)は、日本国内でプラムポックスウイルスの感染が確認された地域およびその周辺の地域を「防除区域」に指定しています。法律により規制の対象となる地域です。
平成26年4月8日現在の防除区域は下記のとおりです。資料は農林水産省によります。 (プラムポックスウイルス(ウメ輪紋ウイルス)の緊急防除の概要

■防除区域(規制の対象となる地域)

◇東京都
青梅市・あきるの市・日の出町(以上全域)
福生市・昭島市・八王子市・羽村市・奥多摩町(以上一部地域)

◇大阪府
富田林市(一部地域)

◇兵庫県
尼崎市・伊丹市・川西市・宝塚市(以上一部地域)

プラムポックスウイルスのDNA解析結果から、防除区域内のウイルス感染は、全て青梅市が感染源であると考えられています。日本国内へのこれ以上の拡散を防止するためにも、防除区域内での徹底した封じ込めが求められます。

なお、プラムポックスウイルスに感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は3年だと言われています。そのため防除区域内では、封じ込め対策を実施してから3年間、新たな症状が出ないことを確認してからでないと、伐採跡地に新たな植樹(ウメ苗・モモ苗)をすることが禁じられています。

↓↓ タイトルをタップ/クリック(内容表示)

アウトドア趣味に関する総合情報サイト>アウトドア雑学>プラムポックスウイルス PPV~ウメ輪紋ウイルスの脅威