ミノカサゴ
(ひれに毒トゲを持つ刺毒魚)
ミノカサゴは長いヒレが美しいフサカサゴ科の魚ですが、ヒレに毒棘を持った刺毒魚です。ミノカサゴにご注意を!
ミノカサゴ。ひれのトゲに猛毒をもつ。
(画像提供:南の海の画像館)
ミノカサゴは、美しい長いヒレをたなびかせて優雅に泳ぐ姿から、海の貴婦人とも言われています。
だが油断は禁物。背ビレと腹ビレ・尾ビレに毒棘(トゲ)をひそめていて、刺されると激しい痛みが数時間続きます。
ミノカサゴは優雅な容姿とは裏腹に、少しふてぶてしい感じの、気が強い魚です。
自分が毒で武装していることを知っているからでしょう。危険が近づいても逃げようとしません。
それどころか、カメラ撮影などでしつこく付きまとうと、毒棘を立てて威嚇し向かってきます。ミノカサゴに過度な刺激を与えるのは禁物です。
気が強い 海の貴婦人
ミノカサゴとは
ミノカサゴは、カサゴ目フサカサゴ科ミノカサゴ亜科に属する魚類の一種。背鰭と腹鰭・尾鰭に毒腺がある棘条(トゲ)を備えていることから、うっかり触って刺されると危険です。
ミノカサゴは暖かい海域を好み、インド洋や太平洋の熱帯・亜熱帯海域に多く生息していますが、わが国でも沖縄沿岸を中心にして、近年では北海道南部以南の本州・四国・九州各地に広く生息しています。ダイビングやシュノーリングを楽しむ場合には、うっかり素手で触ったりすることがないよう、充分に注意してください。
ミノカサゴの毒は強烈ですが、幸いにも人が死に至ることはないようです。ただ、激しい痛みがあり、患部が赤く腫れ上がります。負傷の程度によっては、目眩や吐き気を伴うこともあります。
ミノカサゴの仲間
ミノカサゴの仲間のうち、いくつかを紹介しておきます。いずれも胸びれ・腹びれ・尾びれに毒棘があり危険です。生息域はお互いに重複していて、南日本では複数のミノカサゴ属が同時に目撃されることもあります。
■ハナミノカサゴ
ミノカサゴよりやや南方、日本では駿河湾以南に分布。目の上に長い皮弁(ツノ)があり、あごの下と尾びれに模様がある。
■ネッタイミノカサゴ
伊豆半島以南の太平洋・インド洋に分布。胸鰭の膜が鰭条の途中までしかなく、胸鰭は細かい紐のように見える。
■キミオコゼ
高知県以南、太平洋・インド洋・紅海に分布。岩穴や洞窟の中で、天井に逆さになっていることが多い。胸びれに黒色斑がない。
■キリンミノ(キリンミノカサゴ)
南日本の太平洋側や南太平洋・インド洋に分布。ミノカサゴの中でも大変強い毒をもつ。胸鰭のうち上部の軟条が分岐している。
ミノカサゴの刺傷事故(私自身の経験から)
広島地方ではミノカサゴのことを「ナヌカバシリ」(七日走り)と呼ぶそうですが、この魚に刺されたとき、痛みに耐えかねて七日間走り回るからだそうです。まあ、7日間は大げさだとしても、刺されたときの激痛は半端ではありません。
わたしは以前、沖縄で遊泳中にミノカサゴに刺されて、大変に痛い思いをしたことがあります。
今では「笑い話」なのですが、シュノーケリング中に岩陰に潜むミノカサゴを見つけて、素手で捕まえようとしました。40cm近くもある大きな魚を素手で捕まえれば、友人たちはびっくりするはずです。自慢ができます。
その魚がミノカサゴであることは知っていたのですが、毒トゲがあることは(当時は)知りませんでした。
じっとしているミノカサゴを掴もうとしたその瞬間、左手薬指に「ズギュ~ン」と衝撃が走りました。これまで何度もカサゴの背ビレで刺されて痛い思いをしたときとはまったく違う感覚でした。急いで陸に上がってこの話をすると、地元の人が大騒ぎを始めました。
- 「急いで病院に行ったほうがいい」
- 「これからますます痛くなる。大の大人でも三日三晩、眠られないくらい痛いらしい」
- 「場合によっては指を切断手術しなければならないかもしれない」
さんざん脅された頃には、すでに刺されてから10分くらいが経過していました。痛みはますます激しくなり、「ズッキン、ズッキン」とうずきます。患部は紫色に腫れはじめています。
友人が車で送ってくれて那覇の大病院に着いたのは、負傷から40分ほど経った後でした。思えば車中の30分間と、そのあと病院の待合室にいた1時間くらいの間が一番痛かったように思います。外来で2時間ほど待たされて、ようやく医者の診察を受ける頃には痛みはだいぶん和らいでいました。
結局、医者の手当ては傷口を消毒しただけで終わりましたが、これだけの軽症ですんだのは本当に運がよかったとしか言いようがありません。「無知」が引き起こした、とんでもない騒動でした。
刺傷事故からの教訓
事故の教訓として次のことが言えます。
- 海で遊ぶからには、海の危険生物についてきちんとした知識を身につけておくこと。
- 有毒生物(ウミヘビ・クラゲ・刺毒魚など)による咬傷・刺傷事故の場合は、ためらわずに救急車を呼ぶほうがいい。自分で外来に行くと長時間待たされることがあります。
ちなみに、ミノカサゴの毒はタンパク質毒のため熱に弱く、負傷した患部を火傷にならない程度の熱湯(43~50℃程度)に浸けるなどすると、毒成分が不活性化して痛みが和らぐようです。
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