イモガイ 猛毒を持つ海の殺し屋
(殺人巻貝・イモガイの図鑑)
海の殺し屋・イモガイの秘密に迫ります。イモガイは暖かい海域にすむ猛毒をもった巻貝です。イモガイにご注意を!
獲物を探すイモガイ。人をも殺す猛毒をもつことで知られています。
(画像提供:National Geographic/You Tube)
イモガイは、日本沿岸をはじめ世界の暖海に生息する巻貝です。全種が肉食性で、魚やゴカイ、貝類などを捕食しています。イモガイは自分よりも動きが俊敏な獲物を狩るために、獲物を突き刺す毒銛(毒針)と、相手の動きを封じる強い神経毒とを装備しています。
この神経毒は強烈で、たとえばイモガイの中でも最強の毒をもつとされるアンボイナガイの場合、半数致死量(LD50)による毒性はインドコブラの約37倍、世界最強の毒蛇といわれているインランドタイパンの約2倍の強毒です。
食用にしようと貝獲りをしたダイバーが、イモガイに刺されて死亡する事故も起きています。たかが貝ですが、イモガイは陸棲の毒蛇よりも何倍も強い毒を持っている恐るべき貝なのです。海遊びでは十分に注意しなければなりません。
猛毒の神経毒コノトキシンをもつ巻貝
イモガイとは
(画像提供:アクアカタリスト)
イモガイ(芋貝)は、イモガイ科イモガイ亜科に属する巻貝の総称です。世界中に約500種が知られており、そのうち日本には120種ほどが生息しています。
イモガイの仲間は全種が捕食性で、毒腺が付いた銛(もり)状の歯舌で他の動物を突き刺し、麻痺させて餌としています。この毒は強烈で、世界中のどの毒蛇よりも強く、イモガイ1個体に含まれる毒はアンボイナガイの場合でおよそ人間30人分の致死量に相当するといわれています。毒は猛毒の神経毒コノトキシンが主成分です。
イモガイの生息地は、熱帯~亜熱帯のサンゴ礁や砂地、岩礁地帯などで、日本では沖縄や奄美の沿岸域を中心に広く分布しています。暖流が流れる鹿児島や高知、和歌山などの海域にも多くの種が確認されています。
特に近年は地球温暖化の影響で分布域を拡大しており、太平洋側では房総半島以南、日本海側では能登半島以南の沿岸でも見られます。
イモガイの武器
イモガイは全種が肉食性で、食性の違いにより次の3つに区分されます。
- ・魚食性のイモガイ~小魚などの脊椎動物を捕食する
- ・虫食性のイモガイ~ゴカイなどの環形動物を捕食する
- ・貝食性のイモガイ~貝類を主とした軟体動物を捕食する
中でも魚食性のイモガイは、動きが俊敏な魚を捕食するために、武器となる仕掛けを発達させてきました。歯舌(しぜつ)から進化させた毒銛がそれです。毒銛は一種の「飛び道具」で、吹き矢のように獲物をめがけて発射します。毒銛の根元は伸縮性のある細い管で毒腺につながっていて、毒銛が獲物に突き刺さると自動的に神経毒が注入されます。獲物は瞬時に麻痺して動けなくなります。あとは獲物を丸呑みするだけです。
■獲物めがけて伸びはじめた吻(ふん)~右端の黄色い管
(画像提供:Killer Cone Snails)
魚を見つけると長い吻を獲物めがけてそろそろと伸ばしていきます。吻の先端が獲物に届くと、すかさず毒銛を発射し、獲物に突き刺して毒を注入します。
毒銛の先端は鋭く尖っていて、ときに軍手やウエットスーツさえ突き抜けるほどです。
■毒銛の顕微鏡写真
(画像提供:沖縄生物倶楽部)
毒銛の先端部分の顕微鏡写真です。先端は鋭くとがり、突き刺したあと抜けないように上下二段のかえし(逆トゲ)が付いています。
この毒銛が獲物に突き刺さると、先端から猛毒の神経毒が注入されます
イモガイの殻の特徴
イモガイの殻の特徴:写真はタガヤサンミナシ
(画像提供:貝の図鑑)
イモガイの殻は円錐形で、ほとんどの種で螺塔が低く殻口が狭いのが特徴です。貝殻の形がサトイモ(里芋)に似ていることからイモガイ(芋貝)と名付けられました。英語ではcone snail(円錐形の貝)といいます。いずれも貝殻の特徴をよく反映させた名前です。殻長は10~20cm程度のものが多く、最大種で23cmほどになります。
イモガイは別名をミナシガイ(身無し貝)とも称します。イモガイを採取すると軟体部が貝殻の奥まで入り込んで身が無いように見えることからこのような名前が付けられました。死貝だと思って油断していると刺されることもあり危険です。
イモガイに潜む危険
イモガイの毒は胃酸で分解されるので人間が食べても問題はありません。ただ、イモガイは殻口が狭く、煮ると身が殻の奥に入り込んで(身無し状態)、身を取り出すのが難しくなります。そのため食用にされることはあまりありません。
イモガイの本当の危険性は、その貝殻の色や模様が美しく、また美しいサンゴ礁の周辺や砂浜など人目につく場所にいることが多いので、よく素手で拾い上げられるケースがあることです。
海で遊んでいて美しい大きな貝を見つければ、誰だって嬉しくなって採りたくなります。私だったら絶対採ります。そこが危険なんです。
採った後、素手で持っていたり、肌に密着するようなポケットに入れていたりすると、外敵とみなされて毒銛で刺されることがあります。
沖縄県ではこれまでに30件のイモガイ咬傷被害が報告されており、そのうち8名が尊い命を落としています。
■美しいイモガイの貝殻
(画像提供:wikipedia)
イモガイの仲間は美しい貝殻の持ち主が多く、貝殻コレクションとしても人気があります。
ただ、海でこのような形の生きた貝に出会った場合は注意をしなければなりません。
「イモガイ」の名前は、形が円錐形で、里芋の形に似ていることから名づけられました。
イモガイに刺された場合の対応
イモガイの毒は神経毒ですので、刺されても痛みをあまり感じず、自覚がないことがほとんどです。そのため気付かずに泳いでいて麻痺が進み、溺れて死ぬこともあります。統計上は単なる「溺死」となっている死亡事故にも、もしかしたらイモガイ刺傷被害による事故が含まれているかもしれません。
イモガイに刺されると、直後はほとんど痛みを感じず、その後しばらくして患部に激痛が生じ、続いて腫れ・めまい・嘔吐・発熱といった症状が出ます。重篤な場合は、血圧の低下や全身麻痺が生じ、さらには呼吸不全により死に至ります。
応急処置としては、イモガイに刺されたと思ったら、先ずは海から上がって周囲の人に助けを求めることです。救急車を呼んでもらって病院に急ぎます。
病院での治療は、呼吸系を確保して生命を維持する救命措置が中心となります。イモガイの毒には抗毒血清がありません。そのため患者の体内で毒素が代謝され抜けきるまで、ひたすら生命を持ちこたえさせることが唯一の救命法になります。何とも心もとない話ですが、これが現実です。
ただ、イモガイの毒は心筋や中枢神経には被害が及ばないため、呼吸さえ確保できていれば回復できます。後遺症もありません。最近では人工呼吸器が整備された病院もたくさんあります。
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