貝殻に開いた穴の秘密
捕食者たち~貝の世界の弱肉強食の現場

貝殻に開いた小さな穴:波打ち際で貝殻を集めていると、小さな丸い穴が開いた貝殻がよく見つかります。この穴は、誰が(何が)、何の目的で開けたのでしょうか?貝の世界の弱肉強食の現場をのぞいてみましょう。


二枚貝の貝殻に開けられた小さな穴。穿孔技術は達人の腕前です。
(画像提供:愛媛トヨペット)

波打ち際で貝殻を拾っていると、小さな丸い穴が開いた貝殻をよく見かけます。そういえば潮干狩りのときにも、貝殻に穴を開けられて死んでいるアサリがたくさん目撃されます。

開いている穴は、どれも直径3mmほどのまんまるい小さな穴です。断面は全体がすり鉢状になっていて、その表面は磨かれたようにツルツルです。まるで人間が機械を使って穴を開けたように美しく仕上げられています。

この穴は、貝類を捕食するツメタガイによって開けられたものです。生きている貝の貝殻に穴を開け、吻を差し込んで中身の柔らかい部分を吸いこみます。貝が貝を捕食する。弱肉強食の壮絶な現場です。

貝殻に穴を開けて貝を捕食する巻貝には、ツメタガイの仲間のほかに、潮間帯に生息するイボニシの仲間がいます。かれらは、被食者の貝殻にどのようにして穴を開けているのでしょうか。仕事の一端を覗いてみます。

貝が貝を捕食する

ツメタガイの仲間


ツメタガイ:右は軟体部(足)を出して広げたところ
(画像提供:左=貝の図鑑、右=wikipedia)

ツメタガイはタマガイ科の巻貝です。殻高50mm程度に達する中型の貝で、潮下帯の水深10~50cmほどの浅い砂泥地に生息しています。

餌となる貝類は、アサリやバカガイ、ヒナガイ、コタマガイなどの二枚貝が多く、時にイボキサゴなどの巻貝を捕食することもあります。ツメタガイは夜行性で、砂の中を活発に動き回り、アサリなどの獲物を見つけると大きな軟体部で包み込んで捕食します。

捕食の仕方がユニークです。ツメタガイは、足の裏の前端近くに穿孔腺と呼ばれる酸を分泌する器官をもっています。石灰質の堅い貝殻を酸で柔らかくしながら、紙やすりのような歯舌を前後に動かして丸く削り取っていきます。

完成した穴は直径3mmほどの真円形で、すり鉢状になった実に見事な形状です。この穴から吻を挿入して、柔らかい内臓や体液をストローのように吸い込みます。

ツメタガイに捕食されたアサリの貝殻


(画像提供:浜名湖釣り生活)

穴を開けられる位置は貝の種類によって大体決まっていて、アサリの場合は殻頂に近い尖った部分(曲率が小さいところ)に穴を開けられます。
ここが一番、穴を開けやすいからという説があります。ツメタガイの知恵なのでしょう。

ツメタガイに捕食されたイボキサゴ(巻貝)


(画像提供:野草閑話)

こちらは巻貝の捕食例です。浅い砂地に棲むイボキサゴが被食者です。
二枚貝の場合と違って、巻貝の穴の位置は殻頂とは反対側の、殻口に近い、ふくらみが一番大きなあたりになります。種によって穴の位置がほぼ同じというのが面白いですね。

イボニシの仲間


イボニシ:右は生態画像。潮間帯に群生するイボニシ
(画像提供:左=海の博物館、右=知多自然観察会)

イボニシは、潮間帯に生息する肉食性の巻貝です。イボニシの仲間には、アカニシ・ホネガイ・レイシガイなどのように、他の貝の貝殻にヤスリ状の歯舌で穴を開けて中身を食べる種が多くいます。

イボニシの獲物は、岩盤に固着性のカサガイやウノアシ、フジツボ、カキ、イガイなどです。イボニシにも足の裏に穿孔腺があり、ここから酸を分泌して、硬い貝殻を柔らかくしながら歯舌で削り取って穴を開けます。

イボニシにはもう一つ重要な武器があります。神経毒です。外套腔内部の鰓のすぐ横に鰓下腺(さいかせん)という分泌腺があって、分泌液には弱いながら、神経を麻痺させる作用があります。

そのため、イボニシは特有の採餌行動をとります。同様の環境に生息する同じ科のシマレイシガイダマシが殻に直接丸い穴をあけるのに対して、イボニシの場合は殻の合わせ目や端部に小さな刻み目をうがち、そこから毒を注入して獲物の抵抗力を奪い、殻をこじ開けて中の肉を摂取することも多くみられます。

イボニシに捕食されたミドリイガイ


(画像提供:うたかた草々)

ミドリイガイ。鮮やかな緑色に染まったふちが印象的な貝です。
もともと日本には分布しない外来種ですが、1980年代以降、東京湾以南の各地に分布・定着しました。内湾の岩礁や岸壁に固着して群生しています。
貝殻の穴は、イボニシの仲間に襲撃されたものと思われます。

イボニシの襲撃を受けるフジツボ(飼育下)


(画像提供:You Tube)

珍しい、イボニシが捕食中の写真です。
飼育下のイボニシが、餌のフジツボの上にのって楯板をこじ開けようとしています。
白昼の磯では、こんなシーンはなかなかお目にかかれません。

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