怖いマダニ感染症
死者多数 ウイルス性感染症SFTSほか

マダニが媒介するウイルス性感染症(SFTS)で死亡事例が多発しています。マダニの生態とマダニが媒介する感染症についてまとめました。


殺人吸血鬼マダニ/マダニは様々な病原体のベクター(媒介者)です。
(画像提供:朝日新聞 apital)

キャンプやハイキングの敵といえば、毒蛇のマムシや吸血性の蚊がいますが、それと同じくらい恐ろしいのがマダニです。マダニは様々な病原体のベクター(媒介者)です。小さな吸血鬼ですが、侮ってはいけません。

つい先日も宮崎県で、80代女性がマダニが媒介するウイルス性感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」に感染して死亡しました(2014年5月22日)。宮崎県では6人目、日本国内では25人目の死亡者です。
引き続き同年6月13日には、今度は徳島県で80歳代の男性が同じ感染症で死亡しました。徳島県内では2人目。首にはダニにかまれた痕が見つかりました。

SFTSによる死亡事例がわが国で初めて報告されたのは2013年でした。それからわずか1年間で、西日本を中心に死者は26人に達しています。被害は今後全国に広がり、さらに増え続けると想定されます。

恐ろしい殺人ベクター「マダニ」の実態に迫ります。

マダニが媒介する感染症

マダニとは

マダニは世界中に800以上の種が知られています。そのうち日本には47種が生息しています。これら47種のダニを総称して「マダニ」と呼んでいます。いずれもダニ目マダニ科に属するダニです。アジアやオセアニアに広く分布し、日本では青森県以南の本州・四国・九州に生息します。

マダニは哺乳動物に一時的に寄生して、宿主の生き血を吸って生きています。野生のシカやイノシシ、飼育下の犬、猫はもちろん、人間だってマダニの格好の餌食(宿主)になります。

マダニは私たちが普段キャンプをしたり、ハイキングを楽しむ野山や公園、民家の裏山、畑、道端などいたるところに生息しています。
ハーラー器官と呼ばれる独特の感覚器を持ち、これによって哺乳動物が発する二酸化炭素の匂いや体温、体臭、物理的振動などを感知して、草の上などから動物の体に飛び降りて吸血行為を行います。

マダニの吸血行動

マダニの吸血は、蚊などの吸血昆虫の行動とは2つの点で大きく異なります。

一つは吸血の仕方です。吸血昆虫は針状の口吻を皮膚に突き刺して血管から直接吸血するのに対して、マダニは鋏のような口器で皮膚を噛み破り、皮下に形成された血液プールから血液を摂取します。

もう一つは吸血時間です。吸血昆虫は通常1分程度以内の短時間で吸血行動を終えるのに対して、マダニは一旦咬みつくと5~10日の長きにわたり吸血し続けます。
そのためにマダニは、口下片と呼ばれるギザギザの歯を皮膚に刺し入れて、宿主としっかり連結して離れないようにしています。また、唾液腺から血液凝固を抑制する物質を出して、長期にわたって血液が凝固しないようにしています。

マダニはほかのダニに比べて体格が大きく、通常時でも2mm~3mm程度あり肉眼でもはっきりと見えます。 ただ驚くのは吸血後の大きさです。宿主の血を吸ってパンパンに膨れ上がり、体重はなんと100倍以上に。全長も1cmを超えるまで大きくなります。


吸血中のフタトゲチマダニ。矢印はBlood pool。
(画像提供:農研機構)

マダニ咬症/マダニの寄生画像

犬の頭に寄生したマダニ


(画像提供:doglovers)

山野を駆け回る猟犬ならこんな光景もしょっちゅうですが、愛玩犬でも油断はできません。
散歩コースの草むらや公園で遊んでいてマダニに寄生されることはよくあります。身近な草むらはマダニの格好の棲家です。

マダニに咬まれた足


(画像提供:みかん山から)

人間だって油断なりません。マダニにとっては人間も待ちに待った寄生対象のひとつです。
マダニの「ハーラー器官」はとてもよくできたセンサーで、人間の吐く息や体温、振動などを感知して、草の上から飛び降りて取りつきます。

草地を歩くときは、肌を露出しないことが肝心です。

マダニが媒介する感染症

マダニが恐ろしいのは、様々な感染症を引き起こすベクター(媒介者)だからです。
吸血によって、過去の宿主から引き継いだ病原体が新しい宿主の血液中に送り込まれます。気が付かないあいだに恐ろしい感染症に感染させられてしまいます。

マダニによって媒介される感染症には次のようなものがあります。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
通称SFTS (severe fever with thrombocytopenia syndrome)。SFTSウイルスの感染により引き起こされる。2007年頃から流行し2010年9月に中国で公表された。日本でも2013年1月に、山口県で初めて成人女性の死亡事例が公表された(実際の死亡は2012年秋)。
この女性は熱や嘔吐などで入院。血小板と白血球が大幅に少なくなっており、血尿や血が混じった下痢が続き、約1週間後に死亡した。SFTSによる死亡者は、その後短期間で急速に増加しており、厚生労働省も注意を呼びかけています。

日本紅斑熱
日本紅斑熱リケッチア(偏性細胞内寄生体)の感染によって引き起こされる感染症。最初はかゆみのない発疹や発熱などがある。この時点で病院に行けば大事には至らないが、放っておくと最終的には高熱を発し、そのまま倒れてしまうことがある。

Q熱(コクシエラ症)
人獣共通感染症のひとつで、偏性細胞内寄生体であるコクシエラ菌によって発症する。2~4週の潜伏期の後、高熱、頭痛、悪寒、倦怠感などのインフルエンザ様症状が出現し、一部で肺炎や肝炎の症状を呈する。治療が遅れると死に至ることもある。

ライム病
スピロヘータ(真正細菌)の一種であるボレリアの感染によって引き起こされる人獣共通感染症のひとつ。数日~数週間の潜伏期の後、遊走性紅斑ができ、神経症状や心疾患、筋肉炎など多彩な症状が現れる。慢性脳脊髄炎や角膜炎などを発症することもある。

回帰熱
ライム病と同様にスピロヘータの一種であるボレリアの感染によって引き起こされる。発熱期と無熱期を数回繰り返すことからこの名がつけらた。致死率は、治療を行わない場合で数%~30%程度とかなり高い。

ダニ媒介性脳炎
ダニ媒介性脳炎ウイルスの感染によって引き起こされる感染症。主な症状は、髄膜炎、脳炎もしくは髄膜脳炎として表れ、感染患者の10-20%は長期もしくは永続的な神経障害が残る恐ろしい病気。

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