致死率98% 脳を食う恐怖の殺人アメーバ
フォーラーネグレリア
致死率98%という高い確率でヒトを死に至らしめる恐怖の殺人アメーバ「フォーラーネグレリア」。淡水にすんでいて、ヒトの鼻腔組織から脳内に侵入し、脳の組織を溶かして昏睡状態に陥れます。感染するとまず助からない殺人アメーバ。フォーラーネグレリアの実態に迫ります。
ここで18歳の女性が殺人アメーバ・フォーラーネグレリアに感染して死亡しました。
ノースカロライナ州・U.S. National Whitewater Center(画像提供:Liquid)
2016年6月。アメリカ・ノースカロライナ州シャーロットの「U.S. National Whitewater Center」で、ラフティングによる急流下りを楽しんでいた18歳の女性がアメーバによる感染症「原発性アメーバ性脳髄膜炎(PAM)」で死亡しました。
女性の脳内からは「フォーラーネグレリア」というアメーバが大量に発見されました。
フォーラーネグレリアは人間の脳内で増殖し、脳を溶かし、昏睡状態におとしいれ死に至らしめます。そのためフォーラーネグレリアは、俗に「脳を食う」殺人アメーバとも呼ばれています。
この殺人アメーバ・フォーラーネグレリアによる致死率は、まさに恐怖の数字です。
アメリカの事例では、1962年から2015年までの50年間に134の感染例があり、そのうち死亡者は131人。致死率はじつに98%に達します。日本でも1件だけですが死亡例が報告されています。
殺人アメーバ・フォーラーネグレリアとは、いったい何なのか。どこに生息していて、どうすれば感染するのか(感染を防げるのか)。詳しく観てみましょう。
殺人アメーバ・フォーラーネグレリア
フォーラーネグレリアとは
フォーラーネグレリア
(画像提供:EUROPA)
フォーラーネグレリア(Naegleria fowleri)は、単細胞の原生生物・アメーバ鞭毛虫類に属するアメーバで、通常25~35℃ほどの温暖な淡水域に生息しています。多くのアメーバが鞭毛や繊毛を持たず、細胞内の原形質流動(いわゆるアメーバ運動)によって動くのに対して、フォーラーネグレリアは生活環の一時期に鞭毛を持ち、水中を鞭毛で泳ぐことができるのが特徴です。
フォーラーネグレリアはヒトに対して強い病原性を示し、人間の脳に寄生して原発性アメーバ性髄膜脳炎 (PAM) を引き起こします。脳が破壊され中枢神経系が冒されるため、頭痛や吐き気、嘔吐、発熱がおこり、発症から7日程度の早い段階で急速に昏睡状態におちいり死に至ります。
PAMの死亡率は上述したように98%と非常に高く、発症すると助かることはまずありません。恐ろしい感染症です。
フォーラーネグレリアは、日本でも沼や湖、水たまりなど暖かい水環境には普通に見られます。特に温水プールや浴場、温泉などはフォーラーネグレリアの格好の棲みかになります。レジャー施設での入浴や水遊びには充分な注意が必要です。
鼻から侵入、脳内で増殖
フォーラーネグレリアに冒された脳
(画像提供:youtube)
フォーラーネグレリアの感染経路は鼻腔だと言われています。鼻から入ったフォーラーネグレリアは、鼻孔組織を貫通して神経繊維をたどって脳に達します。脳に寄生することで、脳細胞に深刻なダメージを与えます。
PAMで死亡した人の病理解剖では、脳が「半球の形状を保てないほどに軟化していた」ということです。フォーラーネグレリアの寄生により「脳が解けた」あるいは「脳が食われた」とも表現されます。脳を食う殺人アメーバの異名もここからきています。
PAMとは脳が解ける、何とも奇妙な、恐ろしい病気です。
原発性アメーバ性脳髄膜炎(PAM)の発症例
フォーラーネグレリアによるPAMが初めて報告されたのは1965年、オーストラリアでした。その後、チェコスロバキアやニュージーランド、アメリカなどでPAM発症が報告されています。致死率はいずれも95~98%と極めて高いのが特徴です。日本でも1件の発生と死亡例があります。
ニュージーランドの事例では、天然温泉への入浴や湖沼での水泳によってPAM感染した症例が多く報告されています。いずれの症例とも急性の経過をたどり、発熱や嘔吐を伴う頭痛からはじまり、意識混濁などの神経症状を経て、1週間前後で死に至るケースが多かったようです。そのため、死亡後に解剖して初めてアメーバ性の髄膜脳炎(PAM)であることがわかるケースが多く見られました。
アメリカでは、先述したノースカロライナ州の大規模レジャー施設でラフティングを楽しんだ18歳の女性が死亡したのをはじめ、ミネソタ州の湖で泳いだ10代の少年が死亡した例、家庭の温水器や浴槽内で増殖したアメーバが鼻洗浄器を汚染、それを使って鼻を洗浄して死亡した例などが報告されています。
日本でも1996年に佐賀県鳥栖市で、25歳の独身女性がPAMを発症して死亡しました。わが国ではPAMはこの1件だけですが、感染経路は特定されていません。この患者の過去1ヶ月の行動調査でも、海外渡航歴はなく、野外や温水プールでの水遊び、温泉入浴等の感染機会に関わる事実は確認できなかったということです。もしかしたら家庭の温水器や浴槽などに問題があったのかも知れません。
2%の生還~奇跡的に助かった少女
PAMの2%の関門から生還した奇跡の少女(画像提供:Technity)
アメリカで発症した134件のPAM患者のうち、死亡者は131人。命を取り留めて無事生還できた人はわずか3人しかいない。この2%の幸運を手に入れた人の一人が、写真に写る12歳の少女。アーカンソー州に住むKali Hardingちゃん。
Kaliちゃんは、一時は体温が34度にまで低下する危険な状態に陥ったものの、奇跡的に症状が回復。CNNニュースが伝えるところによると、PAMもすっかり完治して、来週には退院して通学も再開するとのことです。家族から祝福のキスを受け、はじけるような笑顔が素敵ですね。おめでとう。
米疾病対策センターでは、今回Kaliちゃんが命を取り留めた要因の一つとして実験的に投与された新薬の効果が考えられるということです。ただ、この新薬は死亡した他の患者にも投与されているため、両者でなぜ薬効に差が出たのか、今後研究を進めてゆくとしています。
原発性アメーバ性脳髄膜炎(PAM)の今後の予測
フォーラーネグレリアによる感染は極めてまれで、アメリカでも過去50年間で、PAMはわずか134件しか発生しておりません。そういう意味では、PAMは人類全体を滅亡させるような危険な病気ではないのかもしれません。ただ、発症した場合の致死率が95~98%と高いため、自分だけは発症しないように、用心しておくに越したことはありません。
地球温暖化により、アメリカでも、これまで南部に限定されていたPAMの発症が北上化する傾向にあります。
アメリカ疾病予防管理センターでは、感染を防ぐには水遊びの際に鼻クリップをつけることが効果的であるとし、予防を徹底するよう呼びかけています。フォーラーネグレリアの汚染水が大量に鼻に入らないよう注意が必要です。
今後日本でも、温泉や温水プール、レジャーセンターなどの娯楽施設を中心に感染が拡大する恐れもあります。厚生労働省や地方自治体の情報にも注意を払っておいてください。
↓↓ タイトルをタップ/クリック(内容表示)