平成28年熊本地震の教訓
被災者はなぜ車中泊を選んだのか?

平成28年熊本地震がこれまでの大地震と違って特異だった点は、最大深度7の大地震(前震)が起きた28時間後に、さらに大きな地震(本震)が発生したことです。震源が熊本~大分の広範囲に広がり、強い余震が続きました。車中泊とエコノミー症候群の問題、SNSの功罪、ノロウイルス感染など、熊本地震からの教訓をまとめました。


平成28年熊本地震では熊本城の天守・櫓・石垣なども甚大な被害を受けました。
(画像提供:ANN NEWS)

熊本県を中心に、最大震度7を観測する大きな地震が2回立て続けに発生して、この地域に甚大な被害をもたらしました。「平成28年熊本地震」と名付けられたこの地震は、以下の3点で、これまでに経験したことがない特異な地震でした。

めったに起こらない震度7の激震が、短い期間に二回、立て続けに発生したこと。

マグニチュード(M)6.5の大きな地震(前震)のあとに、さらに大きなM7.3の大地震(本震)が発生したこと。

震源域が広範囲に移動し、強い余震が長期にわたって続いたこと。

大地震に襲われても、私たちは「最初の地震が最大で、余震は次第に収まる」ことを経験で知っています。ところが熊本地震では、余震が収まるどころか、最初の大きな地震から28時間後に、それよりもはるかに大きな地震が再び襲ったのです。

さすがの気象庁も、この想定外の進展に当惑し、最初の地震は『前震だった』と訂正せざるを得ませんでした。後の地震を『本震だと思われる』としたものの、さらに大きな本震が襲う可能性も否定できなくなりました。

被災者にとってこれは恐怖でした。「もっと大きな地震が来るかもしれない」「とにかく屋根の下にいるのが怖い。救護所に入るのも怖い」。多くの被災者が車中泊を選択せざるを得ませんでした。その結果、エコノミー症候群で死者が出るなど、新たな課題も浮かび上がりました。熊本市のボランティアセンターが開設されたのは、最初の地震から8日もたってからでした。

熊本地震から私たちは、何を教訓として学べば良いのでしょうか?

平成28年熊本地震

熊本地震の発生状況


(画像提供:産経新聞)

西日本には、中央構造線断層帯と呼ばれるわが国最大の断層帯があり、西日本を南北に分断しています。その中央構造線の西端は、大分県別府湾から阿蘇地方を経て、熊本県西南部で布田川・日奈久(ふたがわ・ひなぐ)断層帯に続いています。今回の熊本地震は、この布田川・日奈久断層帯で発生しました。

最初のM6.5の地震(前震)があったのは平成28年4月14日夜。その28時間後の16日未明にはM7.3の地震(本震)が起きました。いずれも熊本県熊本地方を震央とするもので、活断層が動いた内陸型(断層型)地震でした。震源が11kmと浅く、断層周辺で建物崩壊や土砂崩れなど甚大な被害が生じました。

その後、震源域は北東側の阿蘇地方や大分県西部および中部に拡大。さらに反対側の南西側にも広がって、九州を横切るように延長100kmを超える地震活動帯が生じ、激しい余震を伴う活発な地震活動が続きました。

この地震による被害は、死者49人、行方不明1人、負傷者1,398人。ほかに避難生活によるストレスや病気などの震災関連死により亡くなったと見られる人が14人確認されています。また、12,000棟を超える住宅が全壊・半壊・一部破損などの被害を受けました。(最初の地震から12日目の被害速報=4月26日熊本県発表)

熊本地震のメカニズム


(画像提供:毎日新聞)

今回の熊本地震は、九州地方の特異な地殻変動と関連して発生した内陸型(断層型)地震です。

九州付近では、フィリッピン海プレートが日本列島に対して斜め向きに沈み込んでいるため、布田川・日奈久断層帯がある中央構造線断層帯に沿って東西に横ずれが生じています。

また、南九州がフィリッピン海プレートに引き込まれる動きにあることから、九州島は南北に引っ張られていて、中央構造線の北側では大きな裂け目が生じています。「別府ー島原地溝帯」がそれであり、1万年後には、九州は北九州島と南九州島に分断する運命にあります。

この別府ー島原地溝帯には多くの活断層が集まっていて、今回の熊本地震が過去に例を見ないような複雑な挙動を示したのも、この地溝帯の活断層群に地割れの連鎖が起こったことが原因です。

地震は最初、日奈久断層帯の北端で起きました(4月14日21:26、M6.5、最大震度7)。これが引き金となって、北側に交差する布田川断層帯に連鎖し、本震とされる大地震が発生しました(4月16日1:25、M7.3、最大震度7)。これ以降に発生した余震はすべて、別府ー島原地溝帯と日奈久断層帯の南西部が震源です。

熊本地震では、前震→本震→余震と続く一連の大きな地震が、いずれも異なる活断層で生じていることから、従来のような「本震・余震」といった考えは適当ではなく、すべてが「本震」であるとする学説もあります。

熊本地震とエコノミー症候群

エコノミー症候群とは、飛行機のエコノミークラスなど狭い座席に長時間座っていた乗客が、機から降りた直後に肺塞栓症などで倒れる病気です。ロングフライト血栓症ともいいます。

狭い座席に同じ姿勢で長時間座っていると、下半身の血液の流れが悪くなり、足の静脈に血栓(血の塊)ができやすくなります。着陸後に歩き出した途端、血流に乗って血栓が肺動脈に入り、血管をふさいで肺塞栓症(肺動脈血栓塞栓症)を引き起こします。肺塞栓になると呼吸困難や心肺停止に陥り、死に至ります。

これと同じような事象が熊本地震の被災者に多く見られ、避難生活の在り方を巡って社会問題となりました。

熊本地震では、最大震度7の激震が立て続けに発生したことから多くの民家が全壊・半壊に見舞われました。命からがら脱出した人は、その後も強い余震が続いたこともあって、屋根がある避難所に入るのを怖がり、多くの人が車中泊を余儀なくされました。

狭い車中に寝泊まりすることで、エコノミー症候群で倒れる被災者が相次ぎました。窮屈な狭い座席での暮らし、運動不足、水分不足などがエコノミー症候群を誘発する要因です。

なお、不自由な暮らしを余儀なくされる避難所においても、車中泊の場合と同様にエコノミー症候群が発症しやすいので注意が必要です。適度に足を動かすなどの軽い運動と、十分な水分補給を心がけましょう。

復興支援の受け入れ態勢の遅れ

熊本地震でもう一つ特徴的なことは、復興支援の受け入れ態勢の遅れです。たとえば「熊本市災害ボランティアセンター」が開設されたのは、最初の地震発生から8日後の、4月22日になってからでした。

地震発生直後から、熊本県内はもとより全国からボランティアの申し出、問い合わせが多数寄せられていたにもかかわらず、大きな余震が続いていたことや、行政自身も被災していたことなどから、ボランティアの受け入れができない状態が続いていました。

4月22日付で公表された熊本市の「災害ボランティアセンター開設のお知らせ」では、この種の文章では珍しく「皆様には長らくお待たせいたしました」の文言がありました。参考までに冒頭のみ記載しておきます。

<平成28年熊本地震に伴う熊本市災害ボランティアセンターの開設について>
延期しておりました「熊本市災害ボランティアセンター」について、余震の収束状況を把握するとともに、被災者の皆様のニーズを集約する作業を実施しておりましたが、下記のとおり開設いたします。
ボランティア活動を予定されていた皆様には、長らくお待たせいたしました。より多くの皆様のご支援をよろしくお願いいたします。(以下略)

感染症の恐怖

大規模災害の避難所で留意しなければならない注意点の一つに感染症対策があります。ノロウイルスやサルモネラ属菌などによる集団食中毒や、風邪・インフルエンザなどの集団感染が問題となります。

実際、熊本地震でも、南阿蘇村の避難所のいくつかでノロウイルスの感染症が発生し、患者の移動・隔離やトイレなど供用施設の消毒騒動が起きました。

避難所ではトイレや洗面所などが不衛生になりがちです。きちんとした手洗い・うがいなど、入居者一人ひとりが、自覚と責任をもって、自ら衛生管理に取り組んでいく必要があります。

SNSの功罪

熊本地震の災害支援のうち、とりわけ初期段階の支援活動で威力を発揮したのが、フェイスブックやラインなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の利用でした。

災害の初期段階では、行政(地方自治体)も混乱の極にあり、地域ごとの被害状況も正確につかめていないことが多くあります。とくに、孤立した病院や集会所、学校、民間施設などでは、避難人数や必要物資の把握さえできていない状態がしばらく続きます。

こんな時に威力を発揮したのがSNSでした。

自分たちがいま欲しいものをメモして発信すると、それがネットワークで拡散して、またたく間に全国から支援物質が届けられます。被災地でSNSが使えない場合は、空き地に椅子や小石などで文字を書いておけば、報道ヘリからの画像がSNSに流れて、同様に必要な物資の支援を受けることができます。じつに便利な世の中になったものです。

ただ、SNSの怖さは、拡散が思いもよらず大規模になった場合、必要物資が集まりすぎて、逆に処理に困ってしまうことです。時々刻々と補充される物資の量を早期に把握して、ある段階で「充足の見通しが立った」ことを送信して発送を止めることも必要になります。

日ごとに補充される物資の量をどのように管理・発信して、必要量だけをどうやって確保するのか。SNSの使い方には大きな課題が残されました。

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